「蓬生ぃぃ〜〜〜っ!」

「そんな目ぇしても、あかんよ」

「だって…」

「自業自得…やろ?」

そう言うと、蓬生はにっこり笑顔で傷口に消毒液をぶちまけた。

「っっっ!!!!」

声にならない悲鳴をあげて、自由なもう片方の足でその分床を踏み鳴らす。

「あーあ…千秋が折角修理した床を壊したらあかんよ」

「壊してないっ!」

「冗談や」

「それよりっ、はやっ、早く…終わらせてぇ〜〜っ

「はいはい」

ぎゅっと自分の手を握り、じんじん痺れるような膝の痛みに絶える。
その間に、消毒液をぶちまけた手が、今度は優しく傷口に触れないよう消毒液を拭い、ガーゼを当てて包帯を巻いてくれた。

「全く、どこのお子様かと思うたわ」

「お子様じゃないもん」

「帰って早々転んだ、言う人が、その台詞を言うん?」

「だって、事実だもん」

「あんまり驚かさんで欲しいわ。驚いて心臓止まったらどうしてくれるん」

「…蓬生の場合、シャレにならないんだけど」

「それぐらい、あんたのこと心配したって思ってくれればええよ」

終了を示すよう救急箱を閉じると、ほんの少し翳りのある表情の蓬生に見つめられる。

「……ほんま、心配したんよ」

「ごめんなさい…」

「転びそうになったら、荷物なんか放り投げて、自分の身…守ってや」

「…はい」

そのまま頬に伸びた手は、ほんの僅かだが震えているようだ。

「あんたは俺のモノ…俺のモノに、勝手にキズつけたらあかんよ」

「…じゃあ、蓬生も同じだね」

「せやから、あんたと付き合うようになってから、無理はしてへんやろ」

「…………」

あまり、無理せえへんようにしとう」

「そうだね」

無理をしていない、には同意出来ない。
けれど、あまり無理をしないようにしてくれている、のはわかる。

頬に添えられている蓬生の手に、自分の手を添えて瞳を伏せる。

「…心配かけて、ごめんなさい」

「わかってくれたんなら、ええ」

ゆっくり目を開け、そのまま顔を近づけて蓬生の頬にキスをする。

「心配かけた、お詫び…」

「ちゃんとしてくれればええのに…」

「だ、だっていつ…誰が来るかわかんないし」

「ふふ…いつまでたっても恥ずかしがりやさんやね、は」

「蓬生がオープンすぎるんです!」

僅かに熱を持った頬を誤魔化すよう、添えられていた手をそのままぎゅっと握って下ろすと、ぷいっと横を向く。

「あれあれ、ご機嫌損ねてしもうた」

「知らない!」

「折角手当てしてあげたのに…つれないわ」

そう言われると、なんか…申し訳ない気持ちになってくる。
けれど、そんな気持ちが吹き飛ぶかのように、露わになっていた太股にサラリとした感触を感じて思わずそこへ顔を向ける。

「ちょっ…!?

制止の手も、声も間に合わない。
気づけば、蓬生が手当てをした包帯の上に…キスをしていた。

「なっ、何してんの!?」

「何って…怪我したところ、消毒しとるんやないの」

「いやいや、唾液は消毒にならないしっていうか、もう消毒したし!」

「せやったら、早く治るようおまじない…ってとこやろか」

「はぁ!?」

「膝、怪我しとったら、膝ついてなんも出来………った!

蓬生が最後まで言う前にそばにあったクッションで頭を叩く。

「ちょ…いきなり何するん。痛いわ…」

「蓬生が馬鹿なこと言うからでしょ!」

「俺は配線の手伝いや楽譜整理が大変やね…言おうと思うたのに。ふふっ…は、何考えたん?」

「……ぅ…」

「その顔は、なんや面白いことになりそうやね。…部屋でゆっくり、聞かせて貰おか」

「いやっ、け、結構です!もうすぐ夕飯だし」

「まだ1時間もあるやん。大丈夫、部屋まで抱いてったるから」

言うが早いか軽々抱き上げられ、蓬生はスタスタ歩き始めた。

「ちょ、待って蓬生!マジで!」

「止まってあげたいんは山々やけど、もうスイッチ入ってもうた」

「はぁ!?」

「…悪いけど、覚悟しといて」

「はあー!?」










「おい、蓬生。はどうした」

「手当てしたんやけど、痛むみたいやから部屋で休む言うてたわ」

「…………無理させたろ」

「いややわ、そんな目で見て。俺が怪我人に何する思うとるん、千秋」

「おい、芹沢」

「はい」

「寮のおばちゃんに、簡単な食事を用意して貰ってくれ」

「わかりました」

「なんや、に用意してくれるん?千秋は優しいなぁ…」

「今度は、何もせず食わせるんだぞ」

「なんのことやろか…」

「白々しい…ったく、に同情するぜ」

千秋の用意してくれた食事を運んだ蓬生は、今度は、包帯を変える手当てだけをしたとかしないとか?





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ちなみにすっ転んだのは…私です。
買い込みすぎて、チャリに乗ったまま転びました。
両手の平がざっくりしてました…膝もすりむいてました。
という訳で、こーいう話が出来上がったわけです。
相手を思うがゆえに、好きな人が傷つくと自分も傷つくんだよ〜って話のはずなんです。
…それがなんで、こーなっちゃうんでしょう?(笑)
何があったかどうかは…ま、個人の判断ってことで(おい)
とりあえず、ご飯を頼んでくれた千秋、そして芹沢くんに感謝!?